地下室のへんな穴

 もちろん皆さんご存知だと思うのですが、一応説明しておくと『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』の監督作品である。
 もちろん皆さん観ていると思うので説明は簡単に済ませますが、自分以外がジャケットを着ていることが許せなくなってしまったおじさんが、天井で回転している扇風機(シーリング)の羽根で人を殺してまわる映画です。70分で勝ち逃げする殺人鬼をご覧ください。
 まあ無論お気に入りの映画のひとつであるディアスキンの監督の新作とあれば観なければならないのが人の心というものですが、ここ半年は映画を楽しんで観る心すら失っていたので、最近になって観たのであった。
 ちょっと老いてる中年夫婦が引っ越した家には地下室がありまして、その地下室には穴があるんですよ。
 映画観てもらったら分かるんですけど、がっつり穴。洞穴とかじゃなくて穴。🕳️←これがある。
 その穴には奇妙な効果がありまして。
 その1 穴を通り抜けると、家の2階に辿り着く。
 その2 現実時間で12時間経過することになる。
 その3 体が3日若返る。
 現実時間で12時間経過しているのは果たして、穴を潜り抜ける時間が12時間なのか、穴を潜り抜ける自体はそんなに時間がかからないが、現実では12時間過ぎている。なのかは定かではないけれども、多分後者な気がする。
 この穴、どうやら人だけではなく、腐ってたリンゴとかでも3日戻るらしい。
 たかだか3日。されど3日。
 ここで転べば寿命が残り3年になる3年坂で転がり続けるのが長寿の秘訣であるように、穴を潜り続ければ若さを取り戻せることに気づいた妻は、取り憑かれたように穴を潜り続けるのだった…。

 若さへの執着のように思えた最初から、リンゴの実験を経て、どちらかといえば「自分の行動が合っている。正しいのだということを夫に認めさせたい」に重きを置き始めているようにも見える。
 なにせ夢の若さを手に入れた時間はダイジェストで飛ばされて、若さを見せびらかせているシーンはどれも「光を一瞬浴びるが、すぐにそれだけでは結局意味がなかった」というオチに向かっている。カメラマンに撮影されて有頂天だったのに、その写真を千切り捨てて、また穴に入り始めるように。
 つまり、12時間✖️nを消費してまで得た若さが、得たところでそれだけでは意味がない。という現実を直視してしまうことになるのだ。
 これは作中に登場する日本製の電子ペニス(リモコンで稼動可能)にも言える。あれもこれも、摂理を捻じ曲げてまで得たかった若さと、それを得たことで発生した弊害、そして得たところで、それだけでは意味がない。
 でも、得るために使った時間や金やプライドを思うと引き下がれない。私がやったことは正しかったのだと証明しないといけないのだ! 
 そしてまた彼女は穴に潜り、あるいは彼はひとりで電子ペニスを動かし、新しい彼女を探すのだ。
 だからきっと、この映画をもっとはやく終わらせたかったら、初回で綺麗になったね。と伝えることが必要だったのかもしれない。
 そんな映画か? そんな映画だったのかもしれない。

サメとゾンビと空伏空人

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